「経営講習会」ビジネススキル学ぶ 菓子工青年部
和菓子業界を変えるにはどうしたらよいのか Yahoo!ニュース
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有名和菓子屋が廃業するなど、「和菓子離れ」が指摘されている。
そんな苦しい業界を変えるにはどうすればよいのか。『和菓子企業の原料調達と地域回帰』(筑波書房)の編著者であり、日本大学生物資源科学部食品ビジネス学科専任講師の佐藤奨平氏に聞いた。(清談社 沼澤典史)
● 和菓子業界を 苦しめる数々の原因
和菓子離れが指摘されて久しい。全日本菓子協会によれば、2019年の和菓子の生産金額は3812億円と、10年前と比較して15%も減少している。苦境にあえぐ和菓子業界だが、コロナ禍はさらに拍車をかけた。
2021年2月には「宝まんぢゅう」で有名な仙台の「宝万頭本舗」が自己破産。今年5月には「相国最中」などで知られる和菓子メーカー「紀の国屋」が倒産し、ファンに衝撃を与えた。
厳しい和菓子業界の現状を佐藤氏はこう話す。
「和菓子はお土産や贈答の需要がメインでした。しかし、時代とともに年中行事などにかかる贈答需要が減ってきています。また、コロナ禍では人の動きがなくなったため、お土産需要が激減しました。旅行先や出張での土産購入が減少し、駅ビル、空港、デパートなどに入っている和菓子店や、観光地近隣の店が特に大きな影響を受けました。コロナ禍で和菓子店の倒産が報じられましたが、その以前から、後継者不足による自主廃業が相次いでいます」
出雲大社近くにあって、創業200年以上を誇った老舗和菓子店「高田屋」は2021年11月に閉店したが、その理由は、店主夫婦の高齢化と後継者の不在だった。佐藤氏によれば、このような例は全国的に多々見られるという。
後継者不足以外にも、和菓子業界の不安要素はある。それが良質な国産原料の不足だ。
「和菓子に欠かせない国産小豆は、ほとんどが北海道産です。ただ、それゆえ気候変動による気温の上昇や天候不良によって、ひとたび不作などが起きると、これまで通りの食味や風味を有する高品質な国産小豆が確保できなくなることも予想されます」
さらに、小豆の他にもよもぎ餅などで使用するよもぎの調達も一昔前に比べて、難しくなっているという。
「20年ほど前には、田んぼのあぜ道に自生したよもぎを収穫する季節労働がありました。主に担ったのは高齢者で、それらの集荷者、仲卸業者もおり、和菓子店などに行き渡っていました。しかし、過疎化や高齢化などにより、出荷者、集荷者、仲卸の関係性が失われている。以前よりも国産よもぎが調達しにくくなっています」
国産よもぎと同様に、生産者や収穫者の減少、引退は桜の葉や栗などの調達にも影響を与えているそうだ。
● 自動販売機やウーバーイーツの活用で 集客につなげる和菓子店も
では、現在の和菓子業界にはどのような改善が求められるのか。
「新型コロナによって和菓子業界は対面販売への偏重が浮き彫りになりました。もちろんポストコロナの戦略としては、『温かみと絆』を取り戻すリアルな対面サービスをさらに工夫・強化し、新規顧客とリピーターの獲得に注力することが求められます。しかし、一部店舗では自動販売機による販売や、ウーバーイーツでの配達を行い、集客につながっているところもあります。このような新しい販売方法は、人の流れや立地条件にもよりますが、今般の難局を乗り切る戦略として積極的に取り入れていかなくてはならないでしょう」
たとえば千葉県松戸市の「菓匠 松久」は、店先の自動販売機でどら焼きやカステラを販売している。愛知県大治町の和菓子店「松葉堂」も2021年6月に自動販売機を設置し、まんじゅうや団子、季節のお菓子を販売。他にも、創業135年を迎える「高山堂」(本社・兵庫県西宮市)は、訳あり商品の詰め合わせを自動販売機で売っている。
「自動販売機では小分けで、過剰な包装もなく、閉店後も購入できる。お客さんにとって和菓子が買いやすくなりました。店舗に入ることや箱詰めの商品にハードルを感じてしまうお客さんもいます。自動販売機やウーバーイーツなどは、急場しのぎとはいえ、そうした心理的なハードルを下げる効果ももたらしました」
また、前述した原料の問題についても成功例があるという。
「岐阜県恵那市の『恵那川上屋』では、地元の栗生産者に寄り添い、栗の品質を向上させ、高値で全量を買い取るという仕組みを構築しました。同社はこのモデルを長野県飯島町や熊本県菊池市などに広げています。いわば、和菓子店が原料の産地を形成しているのです。もちろん、ある程度の資本が必要ですが、このような和菓子と農業の相乗効果が発揮できるモデルが他にも出てくることが期待されます」
● 古風な業界だからこそ イノベーションの余地
ただ、そのような変化やイノベーションを起こすには、どんどん若い世代に業界入りしてもらわなければならない。古風なイメージも強い和菓子業界だが、「若い世代にとってさまざまな挑戦ができる環境」(佐藤氏)だという。
「食品ビジネスがうまく進むには、イノベーションとマーケティングという両輪が十分機能することが必要ですが、和菓子業界はまだまだできる。特に零細企業のデジタル化はこれからの課題。このような環境であるため、イノベーションを起こせる余地や新たなビジネスモデル、サービスを試せる場が大いにあると思います。和菓子はヘルシーで、しかも芸術性を兼ね備えた食文化として海外でも人気があるので、海外展開も狙えますしね。ネットを活用したDtoC(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)のビジネスも工夫次第です。今までは身内が事業を引き継ぐケースが一般的でしたが、第三者に継いでもらう『継業』も業界を挙げて積極的に受け入れることが必要でしょう」
海外進出の成功例としては「宗家源吉兆庵」(本社・東京都中央区)が挙げられるだろう。同社は現在、アメリカ、シンガポール、台湾、香港などで20店舗以上を展開中だ。
また、佐藤氏によれば健康志向が高まっている現代こそ、和菓子離れを食い止めるチャンスだという。
「和菓子に使用される小豆には食物繊維、植物性タンパク質、ポリフェノールなどの栄養が豊富に含まれています。さらに洋菓子に比べ、和菓子は脂質も少ないので、ダイエット中でも食べやすい。エネルギーに素早く変わる糖質も摂取でき、かつ低脂質ということでアスリートの捕食にも和菓子は用いられるほどです。さらに和菓子は、ベジタリアン、ヴィーガン、グルテンフリーなどのニーズにも応えることができる。このような面でのメリットを打ち出し、個々のお客さんのニーズに合うような商品開発、マーケティングも需要拡大の一手であると思います」
和菓子業界から驚くようなイノベーションが生まれることを期待したい。
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Yahoo!ニュース 「有名和菓子店」が相次ぎ倒産、業界を苦しめる3つの逆風とは 10月12日
有名和菓子屋が廃業するなど、「和菓子離れ」が指摘されている。
そんな苦しい業界を変えるにはどうすればよいのか。『和菓子企業の原料調達と地域回帰』(筑波書房)の編著者であり、日本大学生物資源科学部食品ビジネス学科専任講師の佐藤奨平氏に聞いた。(清談社 沼澤典史)
● 和菓子業界を 苦しめる数々の原因
和菓子離れが指摘されて久しい。全日本菓子協会によれば、2019年の和菓子の生産金額は3812億円と、10年前と比較して15%も減少している。苦境にあえぐ和菓子業界だが、コロナ禍はさらに拍車をかけた。
2021年2月には「宝まんぢゅう」で有名な仙台の「宝万頭本舗」が自己破産。今年5月には「相国最中」などで知られる和菓子メーカー「紀の国屋」が倒産し、ファンに衝撃を与えた。
厳しい和菓子業界の現状を佐藤氏はこう話す。
「和菓子はお土産や贈答の需要がメインでした。しかし、時代とともに年中行事などにかかる贈答需要が減ってきています。また、コロナ禍では人の動きがなくなったため、お土産需要が激減しました。旅行先や出張での土産購入が減少し、駅ビル、空港、デパートなどに入っている和菓子店や、観光地近隣の店が特に大きな影響を受けました。コロナ禍で和菓子店の倒産が報じられましたが、その以前から、後継者不足による自主廃業が相次いでいます」
出雲大社近くにあって、創業200年以上を誇った老舗和菓子店「高田屋」は2021年11月に閉店したが、その理由は、店主夫婦の高齢化と後継者の不在だった。佐藤氏によれば、このような例は全国的に多々見られるという。
後継者不足以外にも、和菓子業界の不安要素はある。それが良質な国産原料の不足だ。
「和菓子に欠かせない国産小豆は、ほとんどが北海道産です。ただ、それゆえ気候変動による気温の上昇や天候不良によって、ひとたび不作などが起きると、これまで通りの食味や風味を有する高品質な国産小豆が確保できなくなることも予想されます」
さらに、小豆の他にもよもぎ餅などで使用するよもぎの調達も一昔前に比べて、難しくなっているという。
「20年ほど前には、田んぼのあぜ道に自生したよもぎを収穫する季節労働がありました。主に担ったのは高齢者で、それらの集荷者、仲卸業者もおり、和菓子店などに行き渡っていました。しかし、過疎化や高齢化などにより、出荷者、集荷者、仲卸の関係性が失われている。以前よりも国産よもぎが調達しにくくなっています」
国産よもぎと同様に、生産者や収穫者の減少、引退は桜の葉や栗などの調達にも影響を与えているそうだ。
● 自動販売機やウーバーイーツの活用で 集客につなげる和菓子店も
では、現在の和菓子業界にはどのような改善が求められるのか。
「新型コロナによって和菓子業界は対面販売への偏重が浮き彫りになりました。もちろんポストコロナの戦略としては、『温かみと絆』を取り戻すリアルな対面サービスをさらに工夫・強化し、新規顧客とリピーターの獲得に注力することが求められます。しかし、一部店舗では自動販売機による販売や、ウーバーイーツでの配達を行い、集客につながっているところもあります。このような新しい販売方法は、人の流れや立地条件にもよりますが、今般の難局を乗り切る戦略として積極的に取り入れていかなくてはならないでしょう」
たとえば千葉県松戸市の「菓匠 松久」は、店先の自動販売機でどら焼きやカステラを販売している。愛知県大治町の和菓子店「松葉堂」も2021年6月に自動販売機を設置し、まんじゅうや団子、季節のお菓子を販売。他にも、創業135年を迎える「高山堂」(本社・兵庫県西宮市)は、訳あり商品の詰め合わせを自動販売機で売っている。
「自動販売機では小分けで、過剰な包装もなく、閉店後も購入できる。お客さんにとって和菓子が買いやすくなりました。店舗に入ることや箱詰めの商品にハードルを感じてしまうお客さんもいます。自動販売機やウーバーイーツなどは、急場しのぎとはいえ、そうした心理的なハードルを下げる効果ももたらしました」
また、前述した原料の問題についても成功例があるという。
「岐阜県恵那市の『恵那川上屋』では、地元の栗生産者に寄り添い、栗の品質を向上させ、高値で全量を買い取るという仕組みを構築しました。同社はこのモデルを長野県飯島町や熊本県菊池市などに広げています。いわば、和菓子店が原料の産地を形成しているのです。もちろん、ある程度の資本が必要ですが、このような和菓子と農業の相乗効果が発揮できるモデルが他にも出てくることが期待されます」
● 古風な業界だからこそ イノベーションの余地
ただ、そのような変化やイノベーションを起こすには、どんどん若い世代に業界入りしてもらわなければならない。古風なイメージも強い和菓子業界だが、「若い世代にとってさまざまな挑戦ができる環境」(佐藤氏)だという。
「食品ビジネスがうまく進むには、イノベーションとマーケティングという両輪が十分機能することが必要ですが、和菓子業界はまだまだできる。特に零細企業のデジタル化はこれからの課題。このような環境であるため、イノベーションを起こせる余地や新たなビジネスモデル、サービスを試せる場が大いにあると思います。和菓子はヘルシーで、しかも芸術性を兼ね備えた食文化として海外でも人気があるので、海外展開も狙えますしね。ネットを活用したDtoC(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)のビジネスも工夫次第です。今までは身内が事業を引き継ぐケースが一般的でしたが、第三者に継いでもらう『継業』も業界を挙げて積極的に受け入れることが必要でしょう」
海外進出の成功例としては「宗家源吉兆庵」(本社・東京都中央区)が挙げられるだろう。同社は現在、アメリカ、シンガポール、台湾、香港などで20店舗以上を展開中だ。
また、佐藤氏によれば健康志向が高まっている現代こそ、和菓子離れを食い止めるチャンスだという。
「和菓子に使用される小豆には食物繊維、植物性タンパク質、ポリフェノールなどの栄養が豊富に含まれています。さらに洋菓子に比べ、和菓子は脂質も少ないので、ダイエット中でも食べやすい。エネルギーに素早く変わる糖質も摂取でき、かつ低脂質ということでアスリートの捕食にも和菓子は用いられるほどです。さらに和菓子は、ベジタリアン、ヴィーガン、グルテンフリーなどのニーズにも応えることができる。このような面でのメリットを打ち出し、個々のお客さんのニーズに合うような商品開発、マーケティングも需要拡大の一手であると思います」
和菓子業界から驚くようなイノベーションが生まれることを期待したい。
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